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今回の書評は小川洋子の作品から。

猫を抱いて象と泳ぐ
著:小川 洋子
文春文庫

・書評
まず初めに、可能であるならばこの小説を読む前に、
ストーリーにかかわる一切の情報を得るのは極力避けることをお勧めする。
そのため、今回はあらすじを抜きにし、内容についてもほとんど触れない。

話自体は、一人の少年の成長と、その結末を書いたもので、終始少年の視点で描かれる。
少年は『あること』に興味をひかれ、その道にのめりこんでいくのだが、
その際の過程が非常に生き生きとというか、輝くように描かれている。
本来なら難しくとっつきにくい印象を与える『それ』を
ここまで魅力的に描けるのはすさまじいの一言に尽きる。
少年と一緒に、はじめて触れたときの感動と、プレイヤーをつかんで離さない魅力を追体験してほしい。

もう一点の見どころが、虚構と現実のバランスである。
これはフィクションであり、本書に出てくるような変わった特徴をもった人物も、起こる事件も、
現実的にはあまりお目にかかれないだろう。
しかし、読んでいるうちに、まるで本当にあることのように感じられ、
現実感と同時に、現実では感じ得ない印象を与えてくれる。
非現実の受け手である少年の心情が、真に迫って描かれているからこそ可能な現象だろう。

ちなみに『あること』の正体は裏表紙のあらすじに書かれている。
私は友人から本書を借りた時点でブックカバーがかかっていたかったため
幸運なことに一切の情報が得られなかった。
読む際は後ろを振り返ることなく、飛び込む気持ちで表紙をめくってほしい。

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